2019-12-25-WED
たどり着きたいゴールへと、技術で支え想いに応える。
^左・寺田/中央・佐藤/右・清水
職人チームと営業チームから成る「栄作工房」。職人の卓越した技術はもちろんだが、営業チームの2人は工房のキーマンだ。工房から飛び出し出会いの数が増えるほど、新しい発想が生まれ、ご縁がつながり、金属の持つ可能性が広がっていく。工房長の佐藤栄作と、営業の清水、寺田の3人による栄作工房の今とこれからを語る鼎談。
寺田:清水さんが営業で大切にしているのはどんなことですか?
清水:栄作工房が持っている技術を「伝える」ことですね。特に新しい出会いの場だと、私たちが持っている技術をちゃんと理解していただける人へ届けることが大切だと思っています。実は栄作工房の営業担当になった当初は栄作さんに「技術を売りたいんだ」と言われ、悩みました。(佐藤)栄作さんも、それまで技術を結晶して作った緻密な灯篭などをお客さんに見せてみるものの、「こんなものはいらない」って言われたりしたようですし(笑)。
製品カタログも持たず何の営業をしている?
清水:それからいろいろな方にお会いして完成品を見せるよりも、「半」完成品の状態で良いことがわかりました。「こういう可能性もありますよ」と提案したほうが一緒に答えを探しやすいし、話が広がっていくんだなと気づいたんです。たとえばデザイナーさんの場合、具現化できていないモノや解決できていないコトのイメージがあるので、答えはお客さんの中にあるというか。そこからは完成品を見せなくなりました。
寺田:技術の話から興味を持ってもらえて、モノづくりにつながるところが栄作工房の営業担当としてのおもしろさであり、難しさですよね。製品カタログや注文書があれば、ある意味完成品という答えがありますが、栄作工房の場合、提案したモノ、出来たモノが正しい答えなのかがわからない。お客さんに喜んでもらえたらゴールだとは思いつつも、100点だったのか、もっと他のアプローチもあったんじゃないか、と考えてしまうこともありますし、そのジャッジはむずかしいですね。
清水:そのぶん一致した時の喜びは大きいですよね。
栄作:栄作工房はひとことで言えば金物屋ですが、イメージをかたちにして、デザインを具現化するというのが一般的な金物屋とは違う部分じゃないでしょうか。
清水:一般的な金物屋さんなら、得意な技術や専門分野がありますが、私たちはそこを限定せず、ゼロベースで発想することを大切にしたいので、そこは大きく違うかもしれません。
栄作:私はいいアウトプットをするためには、職人自身がいろいろな方と接点を持ち、コミュニケーションを取ることも必要だと思っています。個人が知っている範囲なんて狭いですし、インプットする機会を作らなければ良い職人、技術者にはなれないと思っているので、清水と二人で外に出ることも多いです。そして、営業先では「おもしろい人がいる!」「おもしろい技術がある!」と興味を持ってもらうこと。聞いている人に可能性を感じてもらえないと、そもそも話も聞いてもらえませんから。
清水:そうですね。金物業の私たちと、まったく異業種の専門家やスペシャリストとで話をしていると、お互いに世界の見え方が変わって化学反応が起きると思っているので、私も栄作さんと一緒にいろいろな人に会いたいと思っています。
「こんな変なこと、栄作工房しかやらないから」
清水:ただ、マーケットの需要と合致させることも大切だと思います。半完成品を見ておもしろがってくれる方なら、私たちも「こんな方向性はどうですか?」「こんな風にもできますよ!」と一緒にゴールを探せますが、最初から完成品を求めている方だと掘り下げようもない……。そう考えると、私の仕事は営業というよりもマッチングビジネスなのかな(笑)。いろいろな人と会って意見を交わしていく中で「金属加工業の方とここまで話をするとは思わなかった」「そういう方向性なら一緒にお仕事ができるかもしれない」と言ってもらえて、新しいご縁が広がることも多いです。シナスタジアラボとして参画させていただいた共感覚体験装置の筐体制作なんてまさにそうでした。
2019年2月に六本木ヒルズで開催された「Media Ambition Tokyo」で展示された。写真:Atsuhiro Shirahata(un)
清水:音と光と振動を発する、スピーカーのような振動子が付いた椅子の骨格部分を栄作工房で手掛けたのですが、サウンドアーティストのevalaさんのアップテンポな曲に合わせて自分が浮遊しているような体験ができる装置でした。あの制作をした時に「金物ってどんな場所にも必要なんだな」と感じましたね。バーチャルな世界は別ですが、実態があって何かを支える必要のあるところなら、金物って絶対に必要なんだなと。だからこそ、いろいろなジャンルの方と一緒に仕事をするチャンスがあるんだなと。この装置も人づたいで「こんな変なことをやるのは栄作工房さんしかいないから」と紹介されて、担当の人と会ったのが始まりでした。困ったときに「栄作さんに言えばなんとかなるんじゃないか?」と、少しずつご縁や輪が広がっていくのはうれしいですし、栄作工房の存在意義でもあります。
グループ全体の新たなスタンダードの種をまく
栄作:栄作工房で始まったことが事業として大きくなれば、富士工業グループでの量産体制へとスイッチしていきたいという思いもあります。利益はもちろん必要ですが、栄作工房で利益を出すというより、栄作工房で生み出した新規ビジネスを継続するために、生産数を増やしたり、富士工業へと移行して、グループ全体で利益を出してきたい。今はまだそのシステムづくりというか、ヒントをもらってビジネスの種を探している段階ですが、ゆくゆくは新たなスタンダードとなる商品群を作りつつ、一方で、栄作工房はいつまでも一人一人が何かのスペシャリストとしてチームを形成している少数精鋭のチームであり続けたいと思っています。
まずは目指す「かたち」ありき。方法はあとから開発する
清水:栄作さんがモノづくりで大切にしていることは何ですか?
栄作:手持ちの手段や方法からモノづくりを考えたり、決めつけたりしないことです。栄作工房の仕事は、イメージや思いをかたちにすることですから、「こういう方法だからこうしかできない」「この機械しかないからこうしかできない」となると、イメージをかたちにするという一番大切なことを「そんなことはできないよ!」と理屈でねじ曲げてしまうこともあるので、「そもそも理想のかたちは何だ?材質はどれがベストなんだ?」というところから考えて、そのための方法を開発しては見直す。それを繰り返していくほうが理想に近づけると思っています。最終的にお客さんに見せるのは完成品ですからね。方法や道具、治具も大事ですが、それよりもお客さんが望むイメージや機能をはるかに超えたアウトプットを出して、衝撃や感動を届けられたらと思っています。
「双円」は日本の複数の企業が集まって立ち上げたブランド。
ふたつの円をモチーフにしたプロダクトを製造・販売しており、栄作工房は2019年秋より参画。
栄作:双円(そうえん)というブランドに参入して、ステンレス製の丸いワインクーラーを開発した時も、ステンレスであの丸みを表現するためにいろいろな治具を作りましたが、中には、ほとんど使わなかった治具もあるんです。でも、この治具の一つ一つがなかったら、双円のカタチには至らなかった。プロセスの中では道具や治具はもちろん不可欠ですが、試行錯誤の中での足跡みたいに生まれてくるものかなと思っています。大切なのは、試作の段階から量産での制作方法をイメージして検証することかもしれません。道具の使い方でアプローチも全然変わるし、それは職人によってそれぞれ。もしかしたら道具で使わなくても作ることもできるかもしれません。ただ、道具があったほうがきれいなモノが作れますし、製品にも思いを反映させられると思っています。
個々の技術を活かしてチームで切磋琢磨
寺田:そういう考えに至ったのってどういう経緯ですか?
栄作:子供の頃からモノを作るのが好きで、機械をばらしたりするのが好きで、そうやって身に着けていった要素技術を組み合わせているだけで、何も変わらないんです。要素技術が細胞のようにあって、その技術の組み合わせ方や順番、強弱で目にも口にもなるというか。だから、周りから見ると私の技術は王道でなく、特殊に見えるかもしれないけどすべてを柔軟に使っているだけで、「別に普通じゃん?」って。あれ、かっこいいこと言ったかな(笑)。
清水:(笑)。そういう発想の転換をチーム全体でもっと追求していきたいですね。
栄作:職人ってスポーツ選手と似たようなところがあるかもしれません。スポーツ選手は、スポーツが好きで、体格に恵まれていて、運が良くて、努力ができて、時には少しお金も必要で、そういうことがすべて備わっていたほうがいいけれど、もし欠けている部分があっても他の突出した部分でカバーできてなんとかなるというか。栄作工房も「CADは社内でNo.1」「溶接をやったら右に出る者はいない」とか、そういう一人ひとりの適正を活かしたチームでありたいですね。スポーツ選手は常に試合に出て、常に練習もして、常に前に進む気持ちも持ち続けないと一流であり続けられません。1日休むとその遅れを取り戻すのに2日かかる。2日休むと4日、5日休むと普通の人になってしまうと思うんです。そういう部分も似ているのかなと思います。
清水:そうですね。それぞれのキャラクターを広げながら、切磋琢磨できるチームを目指したいです。
出会いが多いほど新技術を開発できる可能性が高くなる
寺田:栄作さんが今後やってみたいことってどんなことですか?
栄作:普通だったら宇宙とかなんだとか言うのかもしれないですが、「まだちゃんとした技術を開発できていない」と自分では思っているので、本当にすごい技術を発見したいですね。金物とは関係ないですが、何か人の役に立つ、まだ名前のない技術を生み出したいんです。今、世の中にある新しいものってiPS細胞にしても発光ダイオードにしても、何か不思議なことをしたわけじゃなく、何かと何かの技術の組み合わせで、その順番や量や方法が違うだけなのかなと思っているので。
清水:私もそこに気づいて考えが変わったのですが、栄作工房の技術って、つまりは発想の転換なんですよね。
栄作:技術ではなくてアイデア。お客さんからテーマをいただいて、それを実現するための要素技術があって、どう組み合わせるか、どういう方法で使うか。だからこそまだ新しい技術を開発できていないという思いもあります。夢は、世界中の人が「この技術で命を救われた!」となるような技術を開発して、具現化すること!栄作工房でいろいろな素材や人やテーマをいただく環境にあることは、新しい技術に巡り合う可能性が高まることでもあるのかなと思っています。